大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成5年(行ウ)45号 判決

兵庫県三原郡三原町八木笶原鳥井五〇九番地

原告

池田惠一

右訴訟代理人弁護士

上田稔

兵庫県洲本市山手一丁目一番一五号

被告

洲本税務署長 中川秀明

右訴訟代理人弁護士

浦野正幸

右指定代理人

野中百合子

桑名義信

湯田昭児

八木康彦

主文

一  原告の平成元年分の所得税について、被告が平成三年四月二三日付けでなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、国税不服審判所長において取り消された部分を除く。)の取消を求める原告の請求のうち総所得金額三四六万三三八八円、分離長期譲渡所得金額一二〇一万一八九〇円、納付すべき税額二四一万六三〇〇円及び過少申告加算税の額一万九〇〇〇円を超えない部分の取消を求める訴えを却下する。

二  原告の平成二年分の所得税について、被告が平成三年七月一六日付けでなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消を求める原告の請求のうち総所得金額五二六万三八五〇円、分離長期譲渡所得金額六〇九六万〇九六一円、納付すべき税額一三四〇万四一〇〇円を超えない部分の取消を求める訴えを却下する。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求

1  被告が原告に対して平成三年四月二三日付けでなした、原告の平成元年分の所得税にかかる更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、国税不服審判所長において取り消された部分を除く。)を取り消す。

2  被告が原告に対して平成三年七月一六日付けでなした、原告の平成二年分の所得税にかかる更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

二  本案前の答弁

主文第一、二項と同旨

第二事案の概要

一  前提事実(争いのない事実)

1  原告の平成元年分及び平成二年分の所得税について原告のした確定申告及び修正申告、被告のした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定、国税不服審判所長のした裁決の経緯は、別表1、2記載のとおりである。

2  別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、元池田平一の所有であったが、原告はこれを取得し、平成元年中に同物件目録1ないし3の土地を久井康俊ほかに合計一九八〇万円で、平成二年中に同物件目録記載のその余の土地を山鉄工業株式会社ほかに九二〇一万六〇〇〇円でそれぞれ譲渡した。

二  被告の本案前の主張

原告は、第一の請求一1、2記載のとおり、被告の更正処分及び賦課決定処分の取消を求めているが、主文第一、二項記載の部分は、原告がなした修正申告(平成元年分)ないし確定申告(平成二年分)によって確定した部分であるから、更正の請求という法の定める特別の手続を経由することなしにはその取消を請求できないので、右部分は不適法である。

三  原告の主張(違法事由)

原告の本件土地の譲渡によって平成元年及び同二年に原告に発生した譲渡所得に関し、被告は短期譲渡所得の課税の特例(租税特別措置法三二条)に該当するとして更正処分をしたが、原告が本件土地を元所有者である平一から贈与を原因として取得したのは、昭和三二年ころ、あるいは昭和四六年八月四日、もしくは昭和五六年五月一四日であるから、いずれにしても取得の日から譲渡の年の一月一日まで五年以上を経過しており、長期譲渡所得の課税の特例(同法三一条)が適用されるべきである。

四  被告の主張(本件処分の適法性)

原告が本件土地を売買により取得したのは、昭和六〇年四月二三日であり、平成元年及び同二年に発生した本件土地の譲渡所得はその年の一月一日においてその所有期間が五年以下である土地の譲渡による所得に当たり、短期譲渡所得の課税の特例に該当する。

第三判断

一  本案前の答弁について

原告は、前期のとおり、被告の更正処分及び賦課決定処分の取消を求めているが、前記第二の一の1の事実によれば、主文第一、二項記載の部分は、原告がなした修正申告(平成元年分)ないし確定申告(平成二年分)によって確定した部分であるから、更正の請求という法の定める特別の手続を経由することなしにはその取消を請求できないので、右部分は不適法である。

二  本案について

証拠(甲九、一一、一二、乙一、証人池田平一、原告本人)によれば、原告は平一を相手方として、昭和五九年一〇月六日、本件土地の所有権移転登記手続を求めて神戸地方裁判所洲本支部に農事調停を申し立てたこと(昭和五九年セ第二号事件)、原告の申立ての理由は、原告が平一から、昭和三二年五月一四日ころに贈与を受け、仮にそうでないとしても本件土地を二〇年間占有したことにより時効取得したというものであったこと、同調停事件は五回の調停期日を経て昭和六〇年四月二三日に成立したこと、その間相手方である平一からは、本件土地は自己所有であることを前提に、譲渡所得による税金を原告持ちにしてそれ以外に一五〇〇万円を原告がだせば本件土地について移転登記手続をすることを承認する、あるいは一五〇〇万円を一時払いで三回に分けて本件土地を分筆し移転登記手続をするという案が出され、原告からは本件土地と原告所有名義の非農地と交換してもよいとの案が出されたりしたこと、そして調停は、平一が原告に対し、本件土地を昭和六〇年四月二三日金一五〇〇万円で売り渡し、本件土地について所有権移転登記手続をする内容で成立したことが認められる。

以上認定の経緯からすると、原告は、平一との間で本件土地所有権の帰属について争いがあったところ、調停においてこれを平一の所有と認めたうえで、昭和六〇年四月二三日代金一五〇〇万円で買受けたものということができる。ところで本件土地の当時の時価は、右金額をかなり上回るものであったことが認められるが(証人池田)、平一と原告は兄弟であり、弟である原告が池田家を継いで本件土地において農業をしてきた経緯があること(証人池田)からすると売買金額が時価とへだたりがあったとしても、必ずしも不自然とはいえず、代金額が低いことをもって右売買の事実を左右するものとはいえない。なお固定資産税については、原告が支払ってきたものではあるが(原告本人)、平一は本件土地について原告から小作料をとっていないこと(証人池田)からすると小作料支払の代わりに固定資産税の支払を負担したということもできるのであって、固定資産税の支払をもって被告主張の売買の事実を否定することはできない。

ところで原告は、本件土地を昭和三二年五月ころに平一から贈与をうけたと主張するが、原告は当時一五歳であって(原告本人)、原告一人で本件土地を含めた土地の農業を継続することは困難であったこと(証人池田)、しかも、平一は昭和三二年五月ころには家を出ていて、原告とは連絡がとれず、家のことについて話をすることもできなかった(原告本人)というのであるから、この時期に原告が平一から贈与を受けたとは到底認め難い。また原告は、昭和四六年八月四日または昭和五六年五月ころに、平一が原告に本件土地を贈与した旨主張する。平一や原告らの父清次郎は昭和四六年八月四日死亡したこと、そのころ原告が父名義の土地及び本件土地において農業を営んでいたこと、清次郎の生前、平一は、所持していた清次郎名義の土地及び本件土地の権利証を原告に渡したこと、平一は、昭和五六年五月ころ清次郎の遺産に関し相続放棄したことが認められるが(証人池田、原告本人)、原告は、昭和四七年一一月二九日ころには本件土地が平一名義のままであることを知っており(甲七一の1、2、原告本人)、しかも清次郎名義の土地については、平一から特別受益証明書や印鑑証明書の交付を受けて昭和五六年五月一四日には相続登記を経由しているにもかかわらず(甲七三の1ないし4、乙二、三、原告本人)、本件土地については所有権移転登記手続をしていないのであり、他方平一自身も権利証の交付のみによっては所有権が移転しないことを認識していたこと(証人池田)からすると右の事情をもって原告主張の贈与を認めることもできない(もっとも清次郎名義の土地の権利証は証拠(甲一六の1ないし4、一七ないし二四、二五の1、2)として提出されているのに、それよりも重要な本件土地にそれは提出されていないから、事実平一から原告に本件土地の権利証が交付されたかどうか疑問も残る。)

以上のとおりであるから、原告の本件土地の取得を昭和六〇年四月二三日と認定し、平成元年及び同二年に発生した本件土地の譲渡所得が、所有期間が五年以下である土地の譲渡による所得に当たるとして、短期譲渡所得の課税の特例を適用した被告の本件処分はいずれも適法である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村浩藏 裁判官 遠山廣直 裁判官 植村京子)

別紙

物件目録

〈省略〉

別表1

原告に対する平成元年分の所得税の課税の経緯及びその内容

〈省略〉

別表2

原告に対する平成2年分の所得税の課税の経緯及びその内容

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例